なぜ生乳が余るの?値下げやバターにしないのはなぜ?廃棄の原因について

牛乳の原料である生乳ですが、廃棄の危機が迫っていると聞いたことはありませんか?
去年の年末年始にも牛乳を消費しよう!というような情報をよく見かけました。

なぜこのようなことが起こるのかご存じでしょうか?

余っているなら「バターにすれば?」、「安売りすれば?」などが思いつきますが、私も乳製品が好きでお菓子でもよく使用している身近な話題です。生乳が余る現象について、メーカーさんから聞いた事情などと合わせてご紹介したいと思います。

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なぜ生乳が余るのか?

まず、生乳は年間で生産量が増減します。主な変動要因は3つです。

生乳生産量の推移(月別)
全国の生乳生産量(日均量)2021年度・2022年度見通し
一般社団法人Jミルク「2022年度の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと課題について」のデータより

このグラフは2021年の全国生乳生産量の推移です。順に変動がある要因についてみていきます。

①出産時期

牛は人間と同様に哺乳類で、子牛を産まないと乳が出ません。牛は冬から春にかけて出産することが多く、出産後は乳を出す量が増える為、春頃になると生乳生産量が増加します。

②夏場

人間と同じように牛は暑いとその分水分を欲します。飲む量も多いですが、必要となる水分量が多いことや、夏バテのような状態となる牛もいることから、生乳生産量は減少します。
また、この時期は水分を多く摂ったり、生の牧草(水分量が多い)を与えたりすることが多い為、生乳の脂肪分などが薄まって減少する事もよく知られています。

③冬場

牛は寒さに強い動物です。元気がなかった牛たちも調子が出てきて生乳生産量は戻ってきます。この頃の餌は乾燥させた牧草も多く、水分量が少ないため生乳の成分も濃くなります。

グラフのデータは2021年のものですが、毎年同様の傾向です。
春は生産量が多くなることに加え、学校が春休みに入る期間です。給食で使用されていた牛乳分の消費が落ち込むことでどうしても生乳が余り気味になります。

また、ここ最近はコロナ禍でホテルやレストランなどと言った飲食店や施設の利用率も低下し、拍車をかけているのです。

春休みが原因なら今までも余っていた?

ここまで、春に生乳量が増えることと、春休みとコロナ禍で消費が減少することという理由を言いましたが、ではコロナ禍前も余っていたの?と思う人もいるかと思います。

実は生乳が余ったのは春休みが原因ではなく主な要因はコロナです。しかもそのタイミングがちょっと悪かったのです。

2014年ころ、バター不足でスーパーなどからバターが消え、購入制限などがついた時期があったのを覚えていますか?
これを受けて、それ以降は政府の協力も行い、生乳生産量の増量施策を行っていました。

生乳生産量の推移(年別)
農林水産省 牛乳乳製品統計調査のデータより

こちらは生乳生産量のグラフです。

実際にバター不足のあった2014年以降で施策を行ったため、徐々に生乳生産量が回復しています。

施策の影響で生乳生産量がやっと増え始めたところでコロナ禍に突入し消費が減少。生乳が余ってしまったという訳です。

なぜ安売りできないのか?

余っているなら安売りすればいいのでは?と思う方も多いと思います。そこで実際に知り合いの乳業メーカーの方に少し聞いてみました。

余っている時期だけ値段を下げると、戻ったときに値上がりしたと感じられてしまい、消費が落ちてしまうことが想定されます。

また、メーカーが設定する商品の値段(小売希望価格)は得意先に事前案内する都合などもあり細かく変動することが出来ないそうです。(スーパー自体がセールを行うことはあるとのこと)

実際ニュースなどで値上げを取り上げられる時も、一定時期にまとめて通知されていると思います。

また、牛乳は薄利多売の商品で、1本当たりの利益(原料、包材、流通費などを引いた額)は、ほとんどないくらいらしいです。

もちろん付加価値を付けるなどして利益を出している商品もありますが、それでもかなり少ないとの事。もし余っているからといって値下げをすると、物流費や人件費が上がる中で赤字となってしまいます。

いくら余っているからと言ってもメーカーが赤字で作り続けると、その従業員の給料や新たな設備投資などが出来なくなり、最悪の場合好きだった乳製品を食べられなくなる…ということにもつながってしまいます。

また、安く売るという事は生産者の酪農家の方々にもしわ寄せが行ってしまう事から安易に値下げはできないのです。

なぜバターにしないのか?

私もバターを多く使う身なのでこう思っていたことがありました。これについてもいくつか理由があるようです。

というのもコロナでもっと自粛していた去年はこういった話があまり出ませんでしたよね?これは消費量が落ちて余った生乳をすでにバターなどの加工品にして廃棄を回避していたからなんです。

実際に多くのメーカーではコロナ禍に突入してから少しでも廃棄の生乳を減らすべく、バターと脱脂粉乳(バターを作ると出来てしまう)への生産に切り替えていました。

この対策も、外食やホテルなどでの消費が落ち込んだことで在庫が過多になっており、これ以上生産できない状態になっていることが考えられます。

ということはすでにフル稼働で作っているが、消費が落ち込み在庫が多くなっていることでこれ以上作りたくても作れない状況になってきているのです。(今度はバターや脱脂粉乳が廃棄になってしまう)

また、飲用としての生乳よりも加工用の生乳は取引価格が低く、酪農家さんへ入る利益が少なくなってしまう為、余った分を全て加工用に回すというのは酪農家さんを守る為にもなかなか難しいようです。

以上が生乳廃棄危機に陥っている現状のようです。もちろんメーカーさんなどは余った乳を廃棄しないよう必死で考えられていることと思います。ただ、コロナ禍という状況が原因の為、対応が難しくなってることが話を聞いた中でわかりました。

実際に生乳で多く取り上げられている廃棄の問題ですが、生乳以外にも農作物を含めて廃棄になっている物は多くある現状と聞いたことがあります。

特に生乳は生き物からとれているもの。作物と違って作る量を減らすという事はできません。(乳は搾らないと病気になってしまう)

少しでもロスを減らすべく、できることがないか考えていきたいですね。
とりあえず私はお菓子で牛乳を消費したいと思います(笑)

まとめ

春先で生乳廃棄になる主な理由は、①バター不足で生産量を増やしたところでコロナ禍に突入し消費が減少したこと、②コロナ禍ですでに加工品を多く作っていたため、春の生産量が増える時期に加工に回しにくくなってしまったことが主な理由。
バターにしないのではなく、すでに大量に作られており、これ以上作れないという状況に近い。

【参考】
一般社団法人Jミルク:2022年度の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと課題について(22.3.28時点)
https://www.j-milk.jp/gyokai/jukyu/h4ogb40000008jv6-att/a1643587508500.pdf
農林水産省:牛乳乳製品統計調査(22.3.28時点)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/gyunyu/#l

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